佐藤成史FF徒然草第20話、フライフィッシング佐藤成史FF徒然草第20話、フライフィッシング佐藤成史FF徒然草第20話、フライフィッシング
佐藤成史
FF徒然草 第20話

DVD撮影裏話
 決定的ミスに対する反省と言い訳

*台風上陸!?

 関東地方に梅雨明け宣言が出た7月中旬過ぎ、なのにぐずぐずした空模様が続いたままで、夏の陽射しはやってきませんでした。風通しの良い私の部屋は、夜になると寒いくらいに涼しい風が吹きぬけ、夏を通り越して秋になってしまったような錯覚を覚えました。

 725日からの数日間、ビデオメッセージさんとのDVD撮影釣行の予定が入っていたので、その頃には夏の青空がやってくることを期待していたのですが、週末になると、今度は台風7号日本列島直撃!!と天気予報で騒ぎはじめました。

 そんな予報にビビッたビデオメッセージのY氏から連絡があり「ロケを見合わせては……」との提案。しかし、私の超感覚的予想(極めて楽観的な推測ともいう)によれば、ロケの期間中は問題なく撮影が出来ると決めていたので、その案をあっさりと飲むわけにはいきませんでした。

 とりあえず大丈夫だからと嗜めて、気圧配置や似たような条件下における過去の台風のコースを調べてみました。しかしどう考えてもこの台風は上陸しそうにありません。たとえ上陸したところで、目的地に大きな影響が出るコースを辿るとは思えず、気象庁やTVで上陸だとわめく予報士さんたちと大きく見解が分かれたのです。しかし。ここ数年の天気予報の外れ方は驚異的なので、僕は自分の判断のほうを信じることにしました。

 そして、予定通りの日程で撮影を敢行。やはり台風は上陸することなく、自分が予想していたのとほぼ同じルートを辿って、日本列島をかすめて東海上に消えて行きました。多少の雨には降られたものの、現地の友人のみなさんの協力もあって、いつも以上に良い結果を出せたロケになりました。

 お忙しいところ、ロケにお付き合いしていただいたO大兄、そしてI氏に、この場を借りてお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。

*悔やみきれないミス

 今回のDVDはこれまでのようなハウツー物とは少々違う内容のものです。詳しくは、近いうちにこちらのHPで紹介があると思いますのでお楽しみに。魚はいつも以上にたくさん釣れているし、尺上も何本か混じっていますので、そちらの面でも観て楽しいDVDに仕上がると思います。

 しかしながら、いつになく自由に楽しく釣らせてもらっているにも関わらず、「スッポ抜けやバラシ」といったミスの連続。ほとほと自分が嫌になったりもしましたが、どんな編集になるか、それはY氏の判断次第です。どうぞお手柔らかにお願いします。

 そして様々なミスを繰り返しているうち、撮影最終日になって、悔やんでも悔やみきれないミスを犯してしまいました。

 その日は台風一過の完璧な快晴。山々は深い緑に輝き、増水気味の流れは、どこからでもイワナが飛び出してきそうな感じです。何から何まで絶好の条件、それだけに、川に入る前から期待で胸がときめいて……いるはずでしたが、現実はそれとはかけ離れたものでした。

 というのは、前日の晩についつい食べ過ぎて、夜中からひどい下痢になっていたのです。その状態でいきなり炎天下の林道歩き。足元はふらつくし、そのうち頭痛までしてきて体調は最悪。さすがに魚は適度に釣れてくれましたが、昼過ぎには立っていられなくなり、日影でしばらく休ませてもらいました(その間、Y氏は釣りをしていたようです)。

 事件はその休憩から立ち直った直後に起きました。

 いかにも魚が入っていそうな流速と水深のプール。左の岸際のレーンを見ると、なんとそこには40cmはありそうな巨大なイワナの影が……。

 慌ててカメラに指示を出し、そのイワナの映像を収めてもらいました。あとは釣るだけです。撮影のフィナーレを飾るにはもってこいの場面。ふらつく足元も、心なしかシャキッとしたように感じました。

 そしてキャスト。もちろんファーストキャストで決めるつもりです。気持ち的には余裕があったので、フライを落とす位置をわざとレーンから少し逸らし、フライに反応する魚の動きが大きくカメラに映るように演出しました。

 すべてが計算どおり、一発でイワナはフライに反応して、完璧なアワセ、そしてがっちり決まったフッキング……。

 遊ばせることなく速やかにランディング、得意満面の表情で魚の撮影です。ネットに入れた魚を、カメラで取りやすい岸際に寄せようと、対岸に向って歩き出したときでした。ネットの中に入っている魚よりもはるかに大きな魚が、プールの中を凄い勢いで逃げ惑い、僕の目の前を矢のように通過していったのです。

 眩暈がしました。すべてを理解するのに、それほど長い時間はかかりませんでした。

 最初に魚を見つけて、その映像をDVカメラに収めてもらっているとき、僕はフライとティペットを交換していました。その時間はほんの数分間だったはずです。それは焦る気持ちを落ち着かせるためにも必要な時間でした。

 ところが、その数分間がポイントを見る視線の位置を変えてしまったのです。しっかりと魚の位置を確認し、全身全霊を傾けた渾身のファーストキャストは、最初に見つけた大イワナよりも、ほんの少し下流にいた別のイワナに投じられたのでした。

 そうとは知らず、大イワナを仕留めたと勘違いした僕は、想像していたよりは小さい魚(それでも尺は優に超えてましたが)に多少の疑念を抱きつつも、うっかりポイントを荒らす行動に出てしまったわけです。

 身体の不調がこのミスを招いたとはいいません(中度の熱中症だったようです)。しかし、明らかに思慮深さを欠いた行動です。恐るべき天気の予知能力も、快調だった釣りも、すべてはこのミスで吹っ飛びました。軽薄で早合点する自分の性格は、いくつになっても改善されません。反省に反省を重ねるだけでなく、精進に精進を重ねつつ、日々是修行に励むしかないようですね。


■夏イワナ
このたくましき尾ビレの張りが、彼の生きてきた境遇を物語る。生命の漲り、躍動する魚体の美しさに、夏イワナの魅力が集約されている。

2005年8月
佐藤成史

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