佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。
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☆ 3月は九州の川へ ……恒例の九州への釣り旅 第2話
*祝・解禁
年が明けたと思ったら、あっという間に2月です。2月といえば、解禁を迎える川もありますね。
岐阜県の長良川筋はそのうちのひとつです。極小ユスリカにライズするシラメをねらうマッチング・ザ・ハッチの釣りが、この時期の風物詩としてすっかり定着しました。
今年の様子はどうなのだろうと思っていたら、昨日名古屋の友人から連絡がありました。2月1日の解禁日に、長良川中央漁協管内の長良川本流、そして支流の板取川へ行ってきたそうです。ところが見事玉砕したとのこと。今年は放流量が少なく、ライズがほとんど見られなかったそうです。河川の規模に見合うだけの数量が入っていないと、なかなか安定したライズは望めません。放流魚頼りというのも悲しいですが、現実はなかなか厳しいようです。
今シーズン、僕が釣りに出かけるのは3月に入ってからです。行く先はおそらく今年も九州になりそうです。お隣の長野県は2月16日に解禁しますが、ここ何年かは2月中に国内で釣りをしたのはほんの数回だけ。それは寒いからとか、釣れないからとかといった消極的な理由によるものではありません。2月は3月以降に本格化する取材や仕事のスケジュールを調整しなければならないし、確定申告の準備もたいへんです。それにフライも大量に巻く必要にも迫られるので、目を真っ赤にして黙々とタイイングに時間を費やします。
そんなわけで僕にとって2月という月は、シーズン中を楽しく過ごすために、いろいろなことを犠牲にして過ごす月のようです。それに2月は僕の誕生月でもあるので、最近ではことさらに年齢の重さを実感させられます。
*九州への旅
九州の川へ通い始めてから、もう10年以上になります。私は九州の山河や山里の風景が大好きですし、それ以上に九州の人たちが大好きです。毎年出かけるからには、やはりそれなりの理由があります。食べ物も温泉もクオリティー高いですし。
九州のフライフィッシングの川といえば、阿蘇の白川や竹田の大野川が有名です。岩井さんのビデオでも、その素晴らしさがしっかり描写されていますね。あれは凄いです。確かにライズの釣りを中心に、サイズを求めるのであれば、これらの川は双璧といえるかしれません。近年はなかなか安定してライズが見られないことが多いと聞きますが、良い状況に巡り会うことさえできれば、まだまだ素晴らしい釣りができるでしょう。
私の場合、九州で釣るときは特に釣り場を選びません。幸いにしてたくさんの友人たちが九州各地にいるので、彼らと一緒に適当な川で釣りができれば、それだけでけっこう幸せだったりします。
春の九州の空気には、温暖な地方独特の柔らかでのんびりした感触があります。それがたまらなく心地よく、気分がいいのです。例えば、宮崎や熊本の山里の陽射しを浴びながら目を閉じると、伊豆半島の狩野川あたりにいるような錯覚を覚えることがあります。そういえば、竹やぶや常緑樹の感じなども、伊豆のそれと似ているかもしれません。
阿蘇や九重のあたりは相当に冷え込みますが、これが不思議なもので、同じ気温ならば北国よりもはるかに暖かく感じます。底冷えするのではなく、ただ空気だけが冷えているような感じです。
それはおそらく大地の抱えている地熱とか、空気そのものの質感に由来しているのかもしれません。
もうひとつの九州の魅力は、釣り場となる川の規模が意外に大きいことです。もちろん季節的な理由もあって、ヤマメが中下流域に棲める環境が整っていることもありますが、これは私の好みと見事に合致します。五ヶ瀬川や川辺川の本流では、それはそれは気分爽快に釣りができます。残念なことに、釣果はいまひとつさえません。いまだにライズなど見たことないくらいですから……。しかしそれを差し引いても余りある心地よい状況が、そこに満たされているのです。
本流筋や里川に棲むヤマメたちは、一様に太っていて愛らしい表情をしています。場所にもよりますが、九州の川では成魚放流された魚をあまり見かけません。ほとんどが稚魚放流された後、絶妙な環境条件の中で、比較的速く成長を遂げた個体が多いように見受けられます。ということは、魚の質は総体的に良いと判断ができるわけで、これは釣りを楽しむうえでとても大切なことだと私は思っています。
こんなことを書いていると、いやがうえでも九州の川の情景が頭に浮かんできます。
春の風が川筋をさわさわと吹き抜け、さざ波立つ水面に描かれるライズリング……。春霞に煙る山肌には、淡いピンクの山桜。いつもより、ゆっくり時間が過ぎていくことを祈りながら、ロッドを振る至福の時よ……。
あぁ……もうすでに3〜4本の尺ヤマメを釣り上げた気になってます。
佐 藤 成 史
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