佐藤成史連載[毎月1回月初更新]
佐藤成史
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。

■ FF徒然草 第7話

☆ 初夏の北海道にて
     ……道南から道東へ、2週間の気ままな旅

* 別天地

 7月になったばかりだというのに、何だかお盆を迎えたような気分です。
それもそのはずで、今年は4月から30℃を超す気温の日があって、連休頃から真夏の陽気。その後も気温は高いままで、夏日の連続でした。そのうえいくつも台風がやって来て、すでに夏のプログラムが大方終了したような感じがします。
そして昨日(7/1)、羽田からの午後の便で函館にやってきました。
 出発前、日本列島の南海上に居座った台風7号が静岡市に記録的豪雨を降らせ、栃木県では突風と雹による被害が出ました。一昨日には函館方面にもピンポン球と同じくらいの雨粒の大雨が降り(地元の人曰く)、町中の道路が川になって交通に大きな障害が発生したそうです。
 考えてみると、僕が函館に来るときは、大雨、大雪、突風、台風の通過等、天候が不穏な動きを示すのが普通です。さもなければ日照り続きの大渇水といった調子で、いまだかつて穏やかな晴天に巡り会ったことがありません。
 今年の場合は雨男の本領発揮というわけで、特に今年は5月の東北で台風に見舞われ、先月も富山で行なうはずだった取材が大雨でキャンセルになったし、五木村のイベントもあわや台風直撃という状態だったので、函館における来訪直前の大雨もけっして不自然ではなく、むしろ当然のことのように思えてなりません。
 今日の函館の天気は、まさに台風一過にふさわしい快晴でした。日中は多少湿度を感じましたが、夕方からは爽やかな風が吹きぬけ、気温はあっさり20℃を下回りました。空には信じられないくらい明るい月が輝き、函館の町を照らしています。函館といえば夜景が美しいことで有名ですが、月夜の夜景はどんなふうに見えるのでしょう。
 さすがに北海道は別天地、関東の蒸し暑さに慣らされた身体には、その空気の滑らかさがひときわ心地よく感じます。

* 道南の渓

 そして昨日、今日と函館周辺の渓を歩きました。道南の植生は岩手や秋田あたりと大差ないので、基本的にはブナの森に囲まれています。写真だけでみれば、それが北海道とはわからないかもしれません。
この2日間は雨後の好条件にも関わらず、どういうわけか釣りのほうは少々精彩を欠き、数は出るもののサイズが上がらず、今のところ苦戦中です。
 このあたりの渓を歩いていつも感心することは、歩くほどにウェーディングシューズのフェルトソールがきれいになってくることです。川までの行き帰りにぬかるみを通ろうと、岸近くに堆積された泥に足を突っ込もうと、しばらくすればきれいさっぱり。まるで漂白剤に漬け込んだかのように、ソールの白さがよみがえってくるのです。
 濡れたシューズを車内に放置しておいても、ソールの汚れが原因で悪臭を放つなんてことは一切ありません。こんなことは、関東あたりの生活廃水が大量に流入する里川など、濡れたウェーディングシューズを車内に数時間放置しておけば、ソールに付着したノロや汚れが養分になり、悪臭を放つバクテリアが大量発生するというのに……。
 きれいな流れには、当然ながらきれいな渓魚が棲んでいます。そんな渓魚たちと遊びながら、のんびり渓を釣りあがる時間は、まさに至福との時といえるでしょう。
 
* 道東へ

 道東にも思わず目を見張るような美しい流れはたくさんあって、しかもそのほとんどは水量豊富で豪快な渓相だったりします。いかにも大きな魚が棲んでいそうな流れ、ここはここでまた独自の世界を持っています。
 7/4に函館のショップ、『アングラーズハット((Tel:0138-48-7553))でスクールを行なった後、道東方面へ向かいます。
 道南の渓では、もっぱらイワナとヤマメが釣りの対象になり、タックルも#3程度で充分ですが、道東ではニジマスがメインのターゲットになります。釣れるニジマスも、運さえ良ければ大型ですから、タックルは#6が基準。フライも大型のテレストリアルを中心に、大きなニンフやウーリーバッガー系のアトラクターパターンも用意します。システム的には道南の場合とはまったく違います。
釣り方のバリエーションを変えて楽しめるのもフライフィッシングの楽しみですが、北海道ではそれが合理的で無理のない方策になります。そういう意味では、北海道は全国のフライフィッシングを嗜む者たちにとって、まさに憧れの地といえるでしょう。
 ただし、いい魚に巡り会える確率はそう高くありません。結果を左右するのは運、そして情報です。一般的には漁協のような河川管理者が不在で、釣り場を守る手段を持たない地域ゆえ、精度の高い事前情報を得るのは至難の技です。現地の人たちと密に連絡を取り合い、信頼関係を築いたうえで出かけるほうがいいでしょう。特にヒグマの森に入らなければならない場合、情報は生死を分ける要素になるかもしれないのですから。

さて、明日はどこの渓を歩きましょうか……。


佐藤成史


エゾイワナ0407
◎落ち込み脇の反転流をうろうろしているところを見つかって、あっさり釣られてしまったイワナくん。当惑した表情がもまた愛くるしい
     [PHOTO BY SEIJI SATO]

レインボー0407
◎ぷっくり豊満なワイルドレインボー、どんな生活をしていたら、こんな身体になるのだろうか?
     [PHOTO BY SEIJI SATO]

北海道牧場0407
◎日高山脈を遠くに眺めながら走る道すがら、北海道の北海道らしき風景が展開する
      [PHOTO BY SEIJI SATO]

【佐藤成史著書】
「ライズフィッシング・アンド・フライズ」
              (地球丸刊)

「瀬戸際の渓魚たち」
「The Flies part1渓流のフライパターン」
「The Flies part2水生昆虫とフライパターン」
「The Flies part3
   CDCパターンとイメージングパターン」
「ロッキーの川、そして鱒たち」
「ニンフフィッシング タクティクス」
           (以上つり人社刊)

「フライフィッシング」
「徹底フライフィッシング」
「渓魚つりしかの川」
           (以上立風書房刊)
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