佐藤成史連載[毎月1回月初更新]
佐藤成史
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。

■ FF 徒然草 第10話

☆ 秋は野反湖へ
    ……故郷の原風景

* 秋景色 
 渓流シーズンが終わり、街角に秋風が吹きぬける季節になると、いつも決まって浮かんでくる風景があります。それは紅葉に包まれた野反湖の秋景色、子供の頃からいつも楽しみにしていた風景です。
 小学校の高学年の頃から、野反湖へ遊びに行っていました。それほど昔ではないような気がするのですが、数えてみれば35年以上も前になるのですね。
 野反湖へは、家族や親戚と一緒に、吾妻地方へ山菜取りや紅葉見物に行ったついでに立ち寄ることが多かったようです。トヨタコロナのライトバンを父親が運転して、長野原からの酷い悪路を2時間あまり走った果てに辿り着くのが野反湖でした。今では考えられないことですが、車両通行止めで引き返すこともあったし、オーバーヒートで動けなくなった車もよく見ました。座席に空きがないため、荷物と一緒に荷室に放り込まれて運搬されることが多かった自分でしたが、居心地は最悪だったことを覚えています。
 ダム湖ではあるものの、湖面標高で1500mを超える野反湖のロケーションの素晴らしさは特筆すべきものがあります。ダム湖にしては緩やかな地形が選ばれているため、訪れる人にとても穏やかで優しい印象を与えてくれるのです。そして春の新緑とヤマツツジ、夏のニッコウキスゲ、秋の紅葉というように、四季それぞれの自然を味わうことができます。特に秋の紅葉は圧巻で、天気の良い日に湖面に映っては揺れ動く秋の彩りには、子供心にも思わずうっとりとしていました。
 
* 野反湖とニジマス
 現在は保護水面に指定され、禁漁措置が取られているニシブタ沢の流れ込みには、当時たくさんのニジマスの幼魚が泳いでいました。その頃からニシブタ沢では、ニジマスが自然産卵していたようです。
 そして富士見峠下の湖岸や、キャンプ場の前あたりで沖を眺めていると、とてつもなく大きなニジマスがジャンプするのを目撃できました。それはかなり衝撃的な光景で、静かな湖面を引き裂く銀色の巨体の躍動感に強い憧れを感じました。
 時は流れ、野反湖に本格的に通うようになったのは、大学を卒業して何年か経った頃からです。通った割には釣れませんでしたが、憧れの銀色の巨体を何回かはフッキングさせることはできました。フライリールが逆転して、バッキングまで引きずり出されたのも、野反湖のブルーバック・レインボーが最初でした。
 こんなふうにして、野反湖との釣りを介した付き合いだけでも、四半世紀を過ぎるくらいになってしまいました。この間、地元の仲間たちとニジマスの稚魚放流を行なったりしながら、着かず離れずといった感じで野反湖と接してきています。理想の釣り場としての限界を感じることもありますが、地域でもニジマスの放流を欠かさず、釣り人の誘致には積極的です。
 そして今年も秋がきました。すでに紅葉は始まっています。現在はそれほど良いサイズは望めませんが、たまにはきれいなニジマスが釣れているようです。
 釣りに関する情報は六合村(くにむら)のサイト(http://www.vill.kuni.gunma.jp/)で確認してみてください。今年は11月10日までが遊漁期間になっています。野反湖にはイワナも棲んでいますが、イワナは9月20日で禁漁になっていますから、たとえ湖岸付近でクルージングしているのを見つけても、釣らないように注意してください。また、とても寒くて風も強いところなので、防寒対策は万全に。10月中には初雪も来ますし、道路も凍結することがあるかもれません。
 野反湖から少し降りれば、吾妻地方は温泉の宝庫です。帰りにはどこかの温泉に寄って冷えた身体を暖めましょう。
 10月の中旬以降、僕も2度くらいは行きたいと思っています。外輪山の八間山へ登ったり、湖岸を一周したりと、釣りよりもトレッキングや写真撮影を主体に、秋の野反湖を楽しんでくるつもりです。野反湖の秋景色とニジマス釣りは、自分にとってはまさに故郷の原風景。秋を象徴する懐かしい記憶として、心の中にしっかりと刻み込まれています。

 佐藤成史




野反湖の紅葉
◎野反湖の風景
湖岸の車道側から見た野反湖。正面はエビ沢のワンド、その後方にそびえるのは浅間山だ。見慣れているのに、飽きることのない風景
    [PHOTO BY SEIJI SATO]


◎野反湖のニジマス
もはやワイルドの大型個体が出ることは稀だ。成魚放流でも、そこそこヒレの回復した魚が釣れればよしとしよう
      [PHOTO BY SEIJI SATO]

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