佐藤成史連載[毎月1回月初更新]
佐藤成史
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。

FF徒然草 第15
☆ フィールド展望 その3.……釣り場の管理

*管理の現状

 3月に入り、ほとんどの県で渓流釣りが解禁になりました。もう釣りに出かけた方も多いのではないでしょうか? 今年の様子はいかがでしょう?

全国的に年明けから寒い日が続いています。特に北陸、東北、北海道などでは、記録的な大雪の降った地域が多くあるようです。いつもより、春の訪れが遅れて、雪代も遅くまで残りそうな気配です。

 さて、今回はフィールド展望その3……釣り場の管理がテーマです。しかし、皆さんの中には「管理者なんて本当にいるの?」と思われる方がいるかもしれません。管理の実態は把握しづらく、何をやっているのか見えづらいことも指摘されがちです。

でも、法律で釣り場を管理する権限を持った組織はちゃんとあります。その組織こそが漁業協同組合で、合法的に釣り場を管理できるという点では唯一無二の存在です。

漁協は“遊漁規則”というルールを設けて、それを遊漁者、すなわち釣り人に課しています。そして釣り人がそのルールに違反した場合には、当然ながら罰則規定もあります。

漁協は遊漁規則によって釣り場の秩序を維持し、さらに遊漁者から遊漁料を徴収して放流事業に充当させることで、増殖義務をまっとうすることができます。

このような管理手法を合法的に行なえるのは漁協だけですから、管理に関わるすべての面において、漁協さん抜きに話を進めることはできないのです。

 しかし、実際の管理システムや方法論については、今ここで述べてきた意外に詳細な規定はありません。言い換えれば、無難に遊漁規則をまとめて、義務放流量をクリアするのが、漁協に与えられた最低限の役割というわけです。もちろん事務的な手続きや、組織を維持するために行なう作業はたいへんですが、管理面で特筆できる点ということでは、これくらいのものなのです。

これに対して釣り人のほうは、遊漁規則を遵守し、そこに定められた遊漁料金を支払うことで釣りをするのが義務になります。 

漁協による釣り場管理の大まかな図式は、ここまで述べてきたようなそれぞれの関係の上に成り立っています。しかし、現実的に規則がしっかり守られているかというと、それは疑問です。遊漁料金を支払って釣りが行なわれているのかを確認するための監視活動は必要ですが、その人員が確保できないことも多いので、実際には何もしていないこともあります。あるいは一般から監視員を公募して監視を委託し、組合員による監視活動をほとんどやらない漁協もあって驚かされます。

日本の一般的な漁協の場合、そこで漁をして生業としている組合員はまずいませんから(ほんの一部にわずかながら存在しますが)、魚がいなくなっても困ることはありません。それどころか、釣りをしない組合員も普通にいます。それに監視は遊漁者とのトラブルの原因になることもままあるので、面倒は起こさないほうが賢明です。釣り人側の違反者には、ヤクザまがいの極悪人もたくさんいるので、監視はたいへん危険な行為なのです。

決定的なのは、内水面漁協という組織の構造上、いくら釣り人がたくさん訪れて、どんなに多額の遊漁料金が徴収できても、それが自分たちの懐を潤すわけではないことです。これがときにはやる気のなさを生み出し、釣り人誘致に消極的になってしまうのです。

このように、個人の利益にはけっしてならないことを承知で、釣り場を管理するのが漁協……という見方もできます。それはとてもストイックに見えますが、その根底には互助精神や地域のつながりを基盤にした、ゆるぎないボランティア精神が息衝いているのも事実なのです。

その一方で、ダムの補償金や河川工事に伴う漁業被害に伴う金銭など、多額のお金が動くこともあります。放流魚を買い付ける際にも、やはり多額のお金が動きます。こうした金銭の一部が使途不明金になって、社会的な問題を引き起こすこともありますが、本来の使い道は、釣り場の実質的管理や環境保全等に向けられるべきものでしょう。

*これからの管理手法

 このように、漁業協同組合は長きにわたって釣り場の管理をしてきました。そして漁業法が改正されるか、他の釣り場管理に関する新しい法律ができない限り、この状態は間違いなく今後も続きます。

 ところが組合員の構成年齢は上がるばかりです。世代交代がうまく行なわれている組合はひじょうに少ないのが現実です。以前から問題視されている高年齢化は、今後さらに拍車がかかることでしょう。漁協が消失してしまえば、管理者不在になる釣り場は少なくありません。これでは余計に困ったことになってしまいます。

 そんなわけで、とりあえずは漁協に期待するのが筋という考え方もできます。

 実際、漁協がその気になれば、もっともっときっちりした管理ができるはずなのです。漁協の置かれた立場が、今の時代に必ずしも適合しているとはいえなくても、やってやれないことはありません。ただしそれには、いくつかの条件が必要になりそうですが……。

 例えば、釣り場に対してビジョンや目標を持つことです。その釣り場のあるべき姿がどんなものなのか、自分たちはどんな釣り場を受け継ぎ、それを未来につなげるべきなのか……そしてそのために、今何をすべきか……このようなことを、組合全体で真摯に話し合うことが大切でしょう。そして、目標を達成するためには何が必要で、何が障害になっているのか、それを見極めることも大切かと思います。

 その結果導かれたビジョンや目標が民意を得られるなら、良い意味での超法規的な措置が取られるかもしれません。

 釣り人の役割は、漁協にそうした意欲を抱かせ、いざというときそれを協力にサポートすることです。そして漁協との間を取り持ち、調整を図るのが行政の役割といえるでしょう。このとき、行政は地域の意見を充分に反映させながら、柔軟な対応を講じる……このような役割分担が理想ではないでしょうか。

日本各地の地域社会は、それぞれに歴史や伝統のある地域事情を抱えています。したがって、ルールに則った全体主義的な方策が、必ずしも正義として受け止められません。それだけに、絶妙なバランス感覚で釣り場を考えていく必要があると感じます。でもこれは、本当に難しいことなのです。

理想ばかりを唱えても、現実に押し曲げられるだけですが、かといってへこんでばかりでは情けない。文句を言うばかりで、具体的なことを何もやろうとしなかったのが、今までの多くの釣り人の姿でした。そう考えると、今の状態がもたらされた最大の原因は漁協ではなく、むしろ釣り人の側が抱えていた問題のほうが大きいのかもしれませんね。

 佐藤成史

佐藤成史キャッチ&リリース看板
 
 岩手県雫石町葛根田川のC&R区間を知らせる看板。C&Rも管理形態のひとつにすぎないわけで、実施には民意の承諾が不可欠。その場合も管理主体は漁協に置くべきでしょう。


【佐藤成史著書】
「ライズフィッシング・アンド・フライズ」
              (地球丸刊)

「瀬戸際の渓魚たち」
「The Flies part1渓流のフライパターン」
「The Flies part2水生昆虫とフライパターン」
「The Flies part3
   CDCパターンとイメージングパターン」
「ロッキーの川、そして鱒たち」
「ニンフフィッシング タクティクス」
           (以上つり人社刊)

「フライフィッシング」
「徹底フライフィッシング」
「渓魚つりしかの川」
           (以上立風書房刊)
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