佐藤成史連載[毎月1回月初更新]
佐藤成史
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。

■FF徒然草 第5話

☆ 気持ちは北国へ
……初夏の風に誘われて

* フライフィッシングの5月

 風薫る5月、沢筋を吹き抜ける風も爽やかな季節です。初夏の光が降り注ぐ中、新緑にうねる山並みを眺めながら、渓を歩き回る幸福を知らない人は不幸です。
 フライフィッシングをやっていて本当に良かった……と、素直に感じることが最も多い月、それが自分にとっての5月です。
 そういえば、5月にはたくさんの嬉しい思い出があります。生まれて初めてヤマメを釣ったのは5月、そして初めての尺ヤマメを釣ったのも5月でした。郡上八幡の吉田川で、初めてサツキマスを釣ったのは、小雨にけむる5月の夕刻でした。モンカゲロウのスピナーの群れが、空を埋め尽くさんばかりに上流へと飛び去っていった西上州、烏川の夕暮れ。それに80年代に足繁く通った軽井沢の湯川……そこで出会った最大の魚、最高の釣り、そしてスーパーハッチやスーパーライズを目撃、体験したのも圧倒的に5月が多いのです。まるで魔法のような自然界の現象が、五月には頻繁に起こるのです。
 5月はさまざまなかたちで、フライフィッシングを楽しむ人たちに幸福を与え続けてくれます。1年のうちで、自然界が最もダイナミックに変化を遂げるのが5月であり、そうした変化の狭間に居合わせた釣り人に幸運が訪れます。それを思うと、毎日でも川辺に立っていたい気分にかられたりもします。
 
* 北の状況
 
 今年も5月がやってきました。関東以南では、4月中に気温が30度を超えた地域もあったくらいですから、例年よりも季節の進行が早いといわれています。ところが、最近になって北海道の友人数人数人と話をしたところ、どうやら北へ行くほど季節の進行が遅れているような感じです。
 道北の友人曰く「どうも今年は春が遅いようなので、シーズンは短くなるかもしれません。6月よりも7月に入ってから来たほうがいいみたいです」とのこと。
 5月3日、この日、阿寒では雪が降ったそうです。群馬ではTシャツ一枚でちょうどいい陽気でした。
 そして次の日、函館の友人と電話で話したのですが、道南でさえも春は遅れているとか。山岳地帯は低温で雨が少ないために雪が溶けず、もしかすると3週間くらい季節の進行が遅れ気味かもしれないということでした。
 そんなこんなで情報を集めていますが、どうやら今の時点(五月初旬)では、岩手県あたりまでは平年並みの雪溶け状況のようです。山形の寒河江川では雪代のピークは終わったようですし、沢筋の湿っぽいところに、カタクリの花がたくさん咲いている頃でしょう。宮城県の花山村・一迫川でも、連休が明けた頃には川の状態が最高に良くなりそうな様子です。
 連休前半に福島へ出かけていた友人たちによると、浜通りの渓も良かったし、これからは会津方面も良くなりそうだということです。
 実は今年、これまでのところ、雪代の入らない関東・東海地方の渓では、例年に較べると明らかに良く釣れています。そうはいっても、今後これらの地域は日中のライズは期待できなくなりますし、春だけの釣り場というのも少なくありません。しかし暖冬の影響で、水生昆虫の発育がよかったのでしょうか。良い情報があちこちから入ってきました。
 これがそのまま、季節の進行と共に北へ移行してくれればいいのですが、どうなるか楽しみです。
 
* 新作DVDの撮影、そしてスクールもあります!

 さて、いよいよ今年も連休直後から長いロードが始まります。2ヶ月くらいの間、私はほとんど家を空けなければなりません。
 長期ロードの第一弾は、今月の17日あたりから始まるDVDロケです。ロケ地には岩手県、秋田県を予定していますが、現在状況を調査中です。ビデオメッセージさんの企画ですから、詳細についてはこちらのサイトで発表されるのではないかと思われます。
 それから、今月は22日〜23日に岩手県の雫石で、29日〜30日にはやはり岩手の松尾八幡平のクボタロッジさんでフライフィッシングのスクールをやります。
 雫石のスクールの詳細は、岩手高原ペンション村のペンションさんりんしゃ(http://www.diana.dti.ne.jp/~sanrin/)のサイトをご覧になってください。松尾八幡平のスクールについては、クボタロッジ(http://iwateasunaro.com/lodge/)のサイトで詳細をご確認いただけたらと思います。そしてお時間のある方は、ぜひぜひどちらかのスクールに参加してください。時期的に最高ですから、フライフィッシングの楽しみを目いっぱい感じることができるでしょう。それに実釣やフライタイイングだけでなく、自然界の動きなど、いろいろなことを肌で感じられると思います。
 岩手県内のスクールが2週続くので、この間は当然のことながら、東北地方に滞在します。このとき、プライベートで行こうと計画しているのが、前述した宮城県の一迫川と荒雄川、山形の寒河江川……それぞれの川に設けられたC&R区間です。ひとくちにC&R区間といっても、それぞれの地域事情に応じて状況はいろいろです。その違いをあらためて確認しておこうと思っています。
 5月であれば、どこへ行こうと釣果についての心配はしていません。過去の自分のデータから割り出して予想する限り、かなり期待ができるはずなのです。そうはいっても釣りは水ものなので、臨機応変に行動することは心がけてはいますが。
 それよりは、どんな釣りができるのか……そちらのほうが興味深いです。特に楽しみなのは、おそらくどこかの川で遭遇するであろう、マダラカゲロウの仲間のスーパーハッチです。それがアカマダラやエラブタマダラでもいいですが、できたら個体サイズの大きいオオマダラのスーパーハッチに出会えれば最高です。東北のオオマダラは、昼前後に羽化のピークを迎えることが多いので、いい魚が釣れたときの映像もきれいに撮れます。
 そんなこんなで北への夢は膨らむばかりです。そうはいっても、6月最初の週末(5日〜6日)には岐阜県の石徹白へ行っていなければなりません。恒例のイベントへ参加するためです。岐阜から北陸へ回ったら、次の週末には九州・熊本県の五木村のイベントに向かいます。それから7月にかけて、今度は北海道が待っています。
 こんなふうにして日本列島を縦横無尽に容赦なく突っ走るロードですので、毎年のことながら、これが始まって1週間もすると、何が何だか分からなくなってきます。ときどき、自分の居場所がどこなのか忘れてしまうことがあるし、自分はいったい何者なのか、考え込んでしまうこともあります。
それでも、初夏の風に吹かれながら各地を彷徨うことに、不思議な幸福感や達成感を覚えることがあり、それはまた自分の生き甲斐のような気もしています。自分で選択していることですから、とにもかくにもしっかりやらなければいけませんね。


佐藤成史



     ◎初夏、東北の渓
こういうところを、一日中歩いていたいですね。爽やか、たおやか、心地よし……といった感じでしょうか
     [PHOTO BY SEIJI SATO]


       ◎東北イワナ
太っていようが痩せていようが、野生のイワナには独特のパワーを感じます。それが生きていくための条件なのかもしれませんが、それはまたイワナたちの美しさでもあるわけです     
     [PHOTO BY SEIJI SATO]


     ◎オオマダラカゲロウ
マダラカゲロウの仲間内でも、ひときわ大ぶり(#10〜#8)でコロッとした体型が特徴のオオマダラカゲロウ。スーパーハッチ時には、しばしば渓魚たちを狂乱状態に陥れます。羽化時期は南から北、標高の違い等でかなりズレはありますが、東北では5月下旬から6月中旬頃にピークを迎える渓が多いように思えます
      [PHOTO BY SEIJI SATO]

【佐藤成史著書】
「ライズフィッシング・アンド・フライズ」
              (地球丸刊)

「瀬戸際の渓魚たち」
「The Flies part1渓流のフライパターン」
「The Flies part2水生昆虫とフライパターン」
「The Flies part3
   CDCパターンとイメージングパターン」
「ロッキーの川、そして鱒たち」
「ニンフフィッシング タクティクス」
           (以上つり人社刊)

「フライフィッシング」
「徹底フライフィッシング」
「渓魚つりしかの川」
           (以上立風書房刊)
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