佐藤成史連載[毎月1回月初更新]
佐藤成史
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。

■ FF徒然草 第13話
☆ フィールド展望 その1.
      ……2005年の釣り場風景

 新年、明けましておめでとうございます。
 本年もどうぞよろしくお願いします。

 
まずは年頭にあたり、今年度の抱負をお話しさせていただきます。

 今年は酉年、そして1957年生まれの僕は、この2月で48才になります。つまり年男なのですが、よくもまあ48年間も釣りばかりやってきたものだと、我ながら感心したりもしています。しかしながらこの年齢を客観的に振り返ってみると、あと何年、今の調子で山河を駆け回れるだろうか……という不安が脳裏をかすめます。それを思うと、焦らずにはいられません。やっぱり今年も、可能な限り釣り旅を続けるべきだと、あらためて心に誓った次第でございます。

*台風後の対策について

 年が明けたと思ったら、来月には解禁する県がいくつかあります。岐阜や福井、愛媛などでは、2月1日からイワナ・ヤマメ釣りが解禁する河川がありますし、長野県も2月16日解禁の川が多いですから、正月からそわそわしている人たちも多いかもしれませんね。
 
 さて、今年最初のテーマは“フィールド展望”ということで、近い将来、国内の釣り場に起こりうるであろう変化について、3回にわたって予測してみたいと思います。もちろんこれは個人的な予想や思想の範囲を出ないことですから、参考程度に聞いてくださればと思います。
 
 このシリーズの第3話でも少しお話しましたが、国内のフィールド事情はいろいろな意味で急速に変化しているように感じます。
 カワウの被害は相変わらずですし、アユの冷水病対策ではワクチン開発が急がれていますが、今のところ明るい将来は見えてきていません。KHV(コイヘルペス)もこのシリーズで話題にした直後に群馬県内でも発見され、現在でも拡散傾向にあります。この病気も冷水病と同じく、特効薬が見つかっていないばかりか、ウィルスの特性や伝播経路についても未だ分からないことが多く、養殖業者の人たちや研究者を悩ませています。
 
 こうした出来事に加えて、昨年来の天変地異には凄まじいものがあります。世界規模でたくさんの異変が起きていますが、国内を見ても台風や地震に伴う被害には目を覆うものがあります。
 そんな中、僕たちのフィールドを見たとき、昨年10個も上陸した台風による影響の大きさには、計り知れないものがあります。台風がもたらした水害は、多くの山河を一時的に崩壊させてしまいました。
 西日本では、魚類が絶滅したのではないかと思われるほど被害の大きかった川が多数あると聞いています。そして問題は、こうした天災をどう受け止めるかということです。従来のように、治水事業に力を入れ、公共事業と銘打って地域の経済効果を高めようと、画策している族議員系の方々も多いと思いますが、その一方で、ある程度の水害は段階的に受け止めていこうという思想も広まってきています。
 
 ようするにいくら自然と闘ったところで人間に勝ち目はなく……つまり、どんなに費用をかけようと、絶対に洪水を防げる堤防もダムも作れないわけで、それならば水害や天災との共生を前提に地域づくりをやっていきましょう……というような考えです。分かりやすくいえば、ハードの面では自然の猛威に対抗できないので、ソフトの面で工夫しようという試みですね。
 これは今に始まったことではなく、欧米ではすでに取り入れられ、ヨーロッパなどでは洪水を観光に利用しているところもあるくらいです。実は日本だけでなく、洪水という現象は世界中で増加の一途なのです。予想をはるかに上回る気象変化の激しさや意外性に、科学はまったく追いつけない状態なのです。

 我が国とて、特に科学や技術が進んでいるわけではないですから、従来のようなガチガチコンクリート固めの川をひたすら量産するのでなく、地域レベルでいろいろな方向性を模索していただきたいものです。来年は台風がひとつも上陸しないかもしれないし、15個来るかもしれません。実際、2000年にはひとつも来ていません。そして2004年に10個もの台風が上陸することを、いったい誰が予想したでしょうか。
 昨年も九州から北海道まで、全国をぐるぐる回っていましたが、天気予報なんてまったく無意味に感じました。どこへ行っても、本当に面白いくらい外れました。つまり、天気予報すらまともにできないのが、21世紀の人類の能力なのです。立ち向かうだけでなく、謙虚な姿勢で自然と付き合うことも考えていくべきではないでしょうか。

 おそらく、当面は全国各地で災害復旧工事が急ピッチで行なわれることでしょう。もちろんそれはそれで、速やかに計画的に行なわれていくべきです。釣りや魚がどうのなんてことは、迅速な災害復旧が行われ、通常の経済活動が行なわれてから問うことですから。しかし少なくとも、これまでのような縦割り行政による一面的な方法でやり過ごすのではなく、各機関の綿密な話し合いのもとに、計画性を持って取り組んで欲しいと切に願ってやみません。

 このようなわけで、2005年の釣り場風景は、たくさんのブルドーザーやダンプカーなどの工事車両でいっぱいになりそうです。しかし、不謹慎な考えかもしれませんが、林道が崩れて車が入れなくなった区間や、洪水が吉と出て良い釣り場になったところも多いかもしれません。通行止めは魚たちを救うというのも、良く知られた事実です。そんな穴場を探そうと、各地から情報を集めている人たちがいるから恐いです。

 さて、次回は川と魚、そして釣り場の管理等についてお話しようと思います。

 佐藤成史


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6月のT川
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9月のT川
◎川相の変化
 これら2枚の写真は、ほぼ同じ地点から、ほぼ同じアングルで6月と9月に撮ったものです。台風による水害以前と、いくつもの台風が通過した後の変化がよく分かると思います。
 雪代混じりの6月の川は、エメラルドグリーンの美しい水を湛えています。水深にも変化があって、いかにも釣れそうな感じがしますね。
 幾度かの水害を経た9月の川は、水量の差はあるにしろ、すっかり埋まってしまいました。水色も何となく冴えないです。
 だからといって、魚資源までが減耗したわけではありません。こんなに川相が違っても、釣れる魚の数はそれほど変わりませんでした。自然界の変化に合わせて、魚たちも頑張っているわけです。
【佐藤成史著書】
「ライズフィッシング・アンド・フライズ」
              (地球丸刊)

「瀬戸際の渓魚たち」
「The Flies part1渓流のフライパターン」
「The Flies part2水生昆虫とフライパターン」
「The Flies part3
   CDCパターンとイメージングパターン」
「ロッキーの川、そして鱒たち」
「ニンフフィッシング タクティクス」
           (以上つり人社刊)

「フライフィッシング」
「徹底フライフィッシング」
「渓魚つりしかの川」
           (以上立風書房刊)
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