佐藤成史連載[毎月1回月初更新]
佐藤成史
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。

■ FF徒然草 第16

☆ 春の渓へ   

    ……寒い春ですが……

*関東近郊プレロード

 今年の国内初釣りは4月に入ってからでした。こんなに遅かったのは、私の長〜い渓流釣り人生で初めてのことだったかもしれません。
 3月中はニュージーランドへ12日間ほど行っていたこともありますが、目まぐるしく予定が変わったり、お天気が不安定だったりしたために、出かける機会を失ってしまいました。

 そんなこといっても、「ニュージーで釣り三昧したのでは……?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、今回は超過密なスケジュールだったうえに、取材内容が釣りとはあまり関係なかったこともあって、実質1日半くらいしかロッドが振れませんでした。天候にもあまり恵まれず、何かと気遣いの多い撮影の仕事だったので、これは仕方ないことですね。

 それでも4月以降、週末を中心に釣行予定や取材日程が徐々に埋まってきました。4月中は関東地方のメジャーな川でライズの釣りが楽しめます。本格的な長期ロードに出るのは今年の場合は5月後半からになりそうですが、それまでは関東近県の川をプレロード、スレッカラシのヤマメのライズ狙い専門で釣ろうと思います。

 そうした釣りは、自分が長年親しんできたフライフィッシングの原点のようなもの。自然環境的には恵まれていない場所であっても、ライズがあって、どうしても釣りたいと思える魚がそこにいれば、緊張感を持って楽しめる場面には事欠きません。

 そして何よりも嬉しいのは、たくさんの釣り仲間と時間や場所を共有できることです。交通の便が良く、アクセスの容易な有名釣り場は、誰もが訪れることができます。公共性の高い釣り場を通じて、釣り仲間とのコミュニケーションを深めるのは、とても大切なことだと思います。単独行で突っ走り気味の自分にとっては、それが何よりも貴重な時間になります。フライフィッシングという遊びの本質が集約されているのは、実は何気ない都市近郊にある里川だったりするのです。

 しかし時間は無制限ではないので、訪れることのできる場所は限られてきます。とりあえず、それぞれの現場に精通した友人たちの情報をもとに行き先を決めて、里川の春を満喫できれば、それだけで充分に楽しさが膨らんできます。

*寒い春の記憶

 それにしても、今年は春が遅れています。

 昨年の45日、前橋市内は桜の花が満開でした。ところが今年の同じ日、桜はまだつぼみのままです。久しぶりのポカポカ陽気なので、この暖かさが数日続けば、週末までには開花宣言が出るかもしれませんが……。

 桜の花の咲く頃は、マッチング・ザ・ハッチ志向のフライフィッシャーにとっては最高の季節です。それは複数の水生昆虫のスーパーハッチが重なるために、ライズに遭遇する機会が増えるからです。当然、魚たちの活性も高まり、捕食ステージも水面に近くなることが多くなりますから、フライフィッシングならではの楽しみが倍増します。

 水生昆虫のハッチ状況は、その年の天候によって大きく左右されます。つまり、例年同じということはなく、暖冬の年はハッチが早まり、その逆の場合は遅れるのが普通です。

 例えば今年を昨年と比べた場合、関東付近の2月の平均気温は昨年よりも2.5℃くらい低くなっていますから、これを積算温度に換算すると、3月に入った時点で70℃くらいの遅れが生じていることになります。この遅れが桜の開花に影響するのと同じように、水生昆虫のハッチも影響を受けることが予想されます。ただし、水生昆虫の場合は水温が基準になり、必ずしも気温とシンクロするとは限りません。湧水で水温が安定している川など、気温の影響はほとんど受けないかもしれませんし、上流部に豪雪地帯を控えている川などでは、気温が上がるほどに水温が下がってしまいます。

 それにしても、各地域における桜の開花と水生昆虫のハッチの関係は、ある程度の目安にはなります。桜だけでなく、梅、ヤマブキ、ツツジ、フジ……といったさまざまな花の開花時期と水生昆虫のハッチは密接に関係していますから、花に合わせたフライのセレクトというのも可能になるわけです。

 寒い春は、もともと冷水性の魚である渓流魚たちに悪い影響を与えるものではありません。季節の進行は必ずどこかで調整され、自然の力がいつしか例年通りに近づけてしまうものですが、過去において寒い春〜冷夏という流れで季節が展開した年は、間違いなく釣りは好調でした。夏以降、尺オーバーのヤマメが釣れる……とか、なぜか大型イワナに縁があるように感じる年は、よくよく調べると寒い春〜冷夏という季節進行をした年なのですね。

 その逆に春の訪れが早いと、春先が好調でも尻すぼみになることが多いようです。昨年がその例ですが、春が暖かいと南海上の海水温の上昇が早まり、それが台風の発生機会を増やしてしまいます。その結果、釣り場環境が崩され、良い釣りができないということもありますが……。

ということで、今年はこれから良い釣りが期待できそうです。

 佐藤成史

ヤマメ16
 4月の里川ヤマメ。冬の間もエサを食べ続けた健康的肉体。スレッカラシでも愛しく思えるのは何故?


【佐藤成史著書】
「ライズフィッシング・アンド・フライズ」
              (地球丸刊)

「瀬戸際の渓魚たち」
「The Flies part1渓流のフライパターン」
「The Flies part2水生昆虫とフライパターン」
「The Flies part3
   CDCパターンとイメージングパターン」
「ロッキーの川、そして鱒たち」
「ニンフフィッシング タクティクス」
           (以上つり人社刊)

「フライフィッシング」
「徹底フライフィッシング」
「渓魚つりしかの川」
           (以上立風書房刊)
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