佐藤成史連載[毎月1回月初更新]

佐藤成史連載徒然草
佐藤成史(さとう せいじ)
【プロフィール】
 1957年、群馬県前橋市生まれ。北里大学水産学部水産増殖学科卒業。日本全国はもちろん、アメリカをはじめとする世界各国を釣り歩く。
 マッチング・ザ・ハッチの釣りだけではなく、総合的なマッチング・ザ・X(詳細は著書「ライズフィッシング・アンド・フライズ(地球丸刊)」を御覧下さい。)の理論で釣りを展開。フライフィッシングをさらに奥深い世界から捉えた眼力、分析力は他の追随を許さない。
 著書多数。テレビ・ビデオの企画、出演などで活躍中。


FF徒然草 25

☆水生昆虫とフライパターン……その1.
 ミドリカワゲラの仲間とフライパターン

迎春……
皆様、新年明けましておめでとうございます。
この『FF徒然草』の連載も、何と3年目に入りました。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、これまでは気まぐれな内容で更新してきましたが、今回からは数回連続で水生昆虫とフライをテーマに、実践的なお話をしていこうと思います。

*静止画像に惑わされないプロポーション

 基本的にはマッチング・ザ・ハッチの考え方で釣りを組み立てるのが自分のスタイルですが、フライパターンによる効果の違いは、状況次第で限りなくゼロに近いところから、7割くらいの依存度まで、かなり大きな開きがあるように思えます。つまり、フライフィッシングだからといって、フライ単体の威力で魚が釣れるほど甘くはないということです。

 実際の釣りで重要なのは、ドリフト、アプローチの方法(距離、角度、ストーキング等)、そして間の取り方など、釣り人それぞれが持っている技量や個性です。フライはその中における一要素に過ぎません。写真ビギナーに高級カメラを持たせたところで、満足な写真を撮れないように、フライの効果もまた、使い手の技量次第で生きたり死んだりするものなのです。

 さて、今回は春から初夏にかけて、比較的水のきれいな山岳渓流に多くのハッチが見られるストーンフライの仲間……ミドリカワゲラ類について、その羽化形態とフライパターンについて少々考えてみることにします。

 ミドリカワゲラの仲間のアダルトは、体長10mm程度のサイズですから、一般的には小さな部類に入る水生昆虫です。マクロレンズでアップにすると、妖精のような顔つきで、なかなか愛くるしい表情をしています。

 基本的には岸際の緩流部の石に這い上がり、水面より少し上の位置で脱皮する陸上羽化タイプです。羽化の位置が水面に近いぶんだけ、波にさらわれたり、風にあおられたりして水面に落とされる機会が多く、そのような状態から水面羽化に至る個体も多いようです。

 写真のミドリカワゲラは、羽化直後でウィングが伸びきらない状態にある個体です。ウィング先端部がカールしていますが、最初はもっときついカールで外側に巻き込まれています。

 また、両方のウィングを水平ではなく、垂直に立ち上げた状態で合わせているのが羽化直後の特徴です。ウィングはその後、まるでメイフライのそれのように4枚が垂直にピンと伸びた状態で合わせられます(写真A.)。その状態からしばらくして、ようやくストーンフライの特徴であるフラットウィング……全部の翅が水平に重なったカタチに落ち着きます(写真B.)

 しかし、元気のいいアダルトが何らかの理由で水面に落ちたとき、ウィングを折り畳んだまま流下するのは稀です。むしろ水面から逃れようと、積極的にウィングをばたつかせる個体のほうがはるかに多いようです。

 そんな動きを伴う様子に渓魚たちが反応する……すなわちそのアクティブな状態こそがトリガーになると思われます。それをイメージすることが、ミドリカワゲラのアダルト・パターンに求められる性能というわけです。

 このような理由で、ウィングをフラットに取り付けたイミテーションパターンは、あまり効果的ではありません。硬い質感のマテリアルや、ボリューム感の乏しいマテリアルを使って、写真の静止画像そのままをコピーしただけのカタチでは、どうしても存在感が希薄になりがちです。そのようなフライは、人間を感心させることはできても、渓魚たちにとってはそれほど魅力的には映らないようです。

 ミドリカワゲラの仲間のアダルトをイメージする場合、写真A.のように、ウィングを垂直に立ち上げた状態のボリューム感が、フライでイメージするべきカタチの基本だと思います。フライパターンでは、写真C.CDCイエローサリーのようなかたちが無難です。CDCのウィングは、軽くボリューム感のあるウィングを表現するには適していますし、浮力という点でも優れています。つまり、とても機能的で動きのあるイメージに仕上げられるというわけです。

 また、代用品という点で考えたら、サイズを合わせたライトケイヒルのスタンダードパターンのようなカタチがピッタリです。このような色調は、同時期にハッチするヒメヒラタカゲロウのダンなどにも合わせられるので、マッチング・ザ・サイズを基本に、マッチング・ザ・カラー、ポジション、モーションといったイメージで多用途な使い方ができます。スタンダードパターンという普遍的スタイルを持つフライの威力は、こうしたところに生きているのですね。


A.羽化直後のミドリカワゲラ
 ウィングの立ち上がり方に注目。よほど注意していないと、あまり目にしない状態ですが、魚にとってはこちらのカタチのほうが馴染み深いかもしれません。
 [PHOTO BY SEIJI SATO]


B.ミドリカワゲラのアダルト
おそらくセスジミドリカワゲラという種類です。北関東の山岳渓流では5月初旬〜中旬、東北ではその2週間から1ヶ月遅れくらいに羽化期を迎えます。
[PHOTO BY SEIJI SATO]

C.パターン名としては『イエローサリー』というのが一般的でしょうか。もちろんCDCミドリカワゲラなどと表現してもかまいませんけど。
[PHOTO BY SEIJI SATO]

SSパーカ フルジップ&プルオーバー  2パターン作りましたが、エンジ色のプルオーバーのほうは、クリスマス限定品のようです。とても暖かいので毎日着ております。


■新SS T-Shirts
 夏の企画で一番人気だった『イワナ柄』を、白でリニューアルしてみました。でも、自分でデザインしたのに、何だかもったいなくて着られません。

バックナンバーに戻る
Copyright2004 Seiji Sato. All rights reserved.No reproduction or republication without written permisson.
佐藤成史氏の連載文・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。